ラジカル反応の詳細を理解する上では、ラジカルの分子間相互作用の詳細を知ることが不可欠である。そのための有力なアプローチのーつが、ラジカル錯体の分光学的研究である。昨年度までの研究で、大気化学反応や燃焼反応の重要な反応中間体であるOHラジカルやNOラジカルが希ガスと結合したラジカル錯体の分光研究を行い、それらの詳細な分子間相互作用ポテンシャル曲面の決定を行った。更に、閉殻分子から成る錯体には見られない特異な引力相互作用が存在する事を見出し、それがラジカルの不対電子の存在と密接に関連する可能性がある事を指摘した。これらのラジカル錯体について系統的に希ガスを変える事で、分子間相互作用にどのような変化が生じるかを調べる事は、ラジカルの分子間相互作用と不対電子との関連について、その詳細を理解する上で非常に重要である。昨年度のAr-NOのラジカル錯体の研究に引き続き、今年度は、希ガス原子をNeに変えたNe-NOの分光研究を行い、分子間相互作用ポテンシャルを決定した。実験に際しては、より広いマイクロ波帯において大きな入射パワーが得られるように、マイクロ波パワーアンプを購入した。NOラジカルの基底電子状態は2重に縮重しているが、希ガスと錯体を形成することによって対称性が低下し、この縮重が解ける。その様子は回転スペクトルのなかにパリティ分裂として現れる。Ne-NOのパリティ分裂はAr-NOのそれよりも小さい事が解った。これはArよりも分極率の小さなNeでは、NOラジカルとの相互作用がより小さいためであるとして解釈できる。更に、NeとNO間においても、Ar-NOに見られたものと同様の特異な引力相互作用が働いているがわかった。この結果は、これらの特異な引力相互作用が希ガスによらずNOラジカルの不対電子に由来することを裏付けるものである。
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