固体酸触媒を取り上げ、その表面モデルの作成とその表面でのプロトンの運動に関する動力学的研究を行っている。本年度は、具体的な触媒として、高垣・堂免(東大・工)らにより開発されたニオブ酸化物であるイオン性結晶の固体酸触媒(ナノシート触媒)を取り上げ、主に表面モデル作成に関して研究を進めた。 不均一触媒である固体酸触媒は、均一触媒で問題となる生成物の分離、中和、塩の除去といった操作を省略できるため、グリーンケミストリーの観点からも注目されている物質である。高垣・堂免らにより開発されたナノシートは、層状金属酸化物の層を剥離して得られ、広い表面積を持つため、その高い反応性が注目されている。こうしたナノシート状触媒は、2次元の結晶構造を有するという特徴を持つので、理論的に扱いやすいという利点を持つ。 本研究では触媒表面における反応特性を議論する第一段階として、固体酸触媒ナノシートHNb3O8表面モデルを作成し、量子化学計算を用いて固体酸触媒ナノシートHNb3O8上の強酸点の位置を特定し、得られた値を実験結果と比較することでモデルの妥当性を検証した。 はじめに、X線構造解析の結果を元に、ナノシート固体酸触媒HNb3O8の表面モデルを作成した。表面での反応機構を議論したいので、触媒機能を持つ電子状態をきちんと反映しつつ計算量が少なくてすむ、なるべく小さな表面のモデルが求められる。そこで、たクラスターモデルの量子化学計算を実行し、最安定構造・エネルギー・NMRのケミカルシフトを計算で求め、実験で得られている酸点に関する情報と比較することで、モデルの妥当性を議論した。計算方法はGaussian03プログラムを用いて行い、計算レベルはB3LYP、基底関数にはLanL2DZを用いた。 全エネルギーとアンモニアの吸着エネルギーから、もっとも安定なプロトンの位置が決定できた。しかし、プロトンの位置による電荷やNMRのケミカルシフトの値にはあまり違いがなく、これらの情報からプロトンの位置を特定することは難しいことが分かった。モデル化に関しては、今後は周りの電荷の影響を取り込んだ新しいモデルや周期境界条件を考慮したモデルの作成を含め検討していく予定である。また、来年度は、いよいよプロトンの動力学に関する研究に取り掛かりたいと考えている。
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