研究概要 |
固体アルゴンの中に埋め込んだ6-ヒドロキシキノリンおよび7-ヒドロキシキノリンがどのような光反応を行うかについて,赤外分光法と量子化学計算によって研究した.観測した赤外吸収スペクトルと計算したスペクトルパターンを比較することによって,ヒドロキシキノリンの水酸基の水素原子が選択的にキノリン環の外側に向いていることがわかった.波長が約300nmの紫外線を試料に照射すると,これまでにまったく知られていなかった化学種のスペクトルを観測することができた.未知物質の一つは,水酸基の水素原子が脱離することによって生成するキノリノキシルラジカルであることがわかった.もう一つの未知物質は,水素分子が脱離して,そのあとで分子内の電子の移動が起こって生成するケテン化合物であることがわかった.生成したケテン化合物の構造は出発物質のヒドロキシキノリンの水酸基の水素原子の向きに依存することもわかった.7-ヒドロキシキノリンでは,さらに,脱離した水素原子が分子内でキノリン環の窒素原子に移動して結合し,ケト形に異性化することがわかった.この異性化はポテンシャルの障壁の高さから考えて,トンネル異性化である可能性が高いことがわかった.以上のように,反応物質,反応中間体,反応生成物の幾何学的構造を正確に決定することのできる今回の研究方法は,とくに光反応機構の詳細な解明に有効であることが明らかになった.今回の研究成果については,ヘルシンキで行われた国際会議で招待講演として発表し,また,国内では分子科学討論会で2件の発表を行った.現在,50ページにおよぶ学術論文として,投稿準備がほぼ完成している.
|