(S)-1-エトキシカルボニルエチル-(S)-シクロヘキシルアミンコバロキシム錯体を合成し単結晶を作成し、X線結晶構造解析を行なった。この単結晶をキセノン光照射装置により可視光照射し、光照射後の単結晶についての3次元回折データを収集し、動的X線結晶構造解析を行なった。反応部分である反応基エトキシカルボニルエチル基はR体とS体にdisorderしており、光照射前にはS体100%だったものが、光照射後にはラセミ体を通り越して、R体75%の構造をとっており、キラリティーが反転していることがわかった。キラリティーは、生命現象を理解する上で重要な鍵を握っているが、長年行なわれてきたキラリティーに関する研究は結果の蓄積に留まっており、その起源や現象の理由については未解決のままであった。キラリティー反転においても、溶液中でこの興味深い現象が観測されているのみで、そのメカニズムについては解明できていない。このようにキラリティーの現象はたいへん重要で興味深いが、その原因を解明するのは非常に困難なテーマであったが、本研究で初めて、非常に興味深いキラリティー反転現象について、コバルト錯体を用いることによって、固体ひいては単結晶起こすことができたので、大変意味がある。引き続き通常起こらないキラリティー反転がなぜ観測されるのかの原因について、実際の反応途中をX線結晶構造解析によって3次元でその場観察することによって、反応分子および分子周辺の3次元構造の変化から現象を解明していく予定である。
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