研究概要 |
(S)-1-エトキシカルボニルエチル-(S)-シクロヘキシルアミンコバロキシム錯体の単結晶(R:S=0:100)に可視光を照射すると、R:S=82:18とキラリティー反転を起こすことが、X線結晶構造解析により明らかとなった。この反応について詳細に調べるために、光照射前および光照射後の数段階で、単結晶についての3次元回折データを収集し、動的X線結晶構造解析を行なった。解析の結果、反応部分であるエトキシカルボニルエチル基はS体とR体のdisorder構造をとっており、この比率が光照射とともに変化していた。最終的には、R:S=82:18で収束した。この理由について、結晶の3次元構造から反応基の周りの反応空間を計算してみたところ、反応空間が非対称になっており、反応の収束したR:S=82:18の構造の解析からは、反応空間は左右の体積が同じで対称になっていることがわかった。これらの結果より、反応空間の非対称性がキラリティー反転反応の要因であることが明らかとなった。また、逆のキラリティーをもつ(R)-1-エトキシカルボニルエチル(S)-シクロヘキシルアミンコバロキシム錯体についても合成し、単結晶を作成して、同条件下で可視光を照射すると、R:S=100:0からR:S=82:18に変化した。さらに、R:S=50:50のラセミ体の(R,S)-エトキシカルボニルエチル(S)-シクロヘキシルアミンコバロキシム錯体の単結晶でも同様の実験を行なったところ、やはり、R:S=82:18に変化した。これらの一連の実験により、上記3種のいずれの結晶からスタートしても、反応空間が対称になるR:S=82:18の構造が最も安定な最終構造であることが明らかになった。
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