触媒化学気相堆積法において酸化性ガスを使用することは、タングステン等の触媒体が酸化されるため、困難とされてきた。そして、もっぱら、シラン、アンモニア、メタンなどの還元性雰囲気中での堆積が試みられてきた。一方、酸化性の原料ガスでも多量の水素等の還元性ガスを混合すれば、触媒体の酸化が防止できることが最近見出された。そこで昨年度はそれを利用して、酸素/水素混合系において、加熱タングステン触媒体上で生成する水素原子、酸素原子、OHラジカルの検出と定量をレーザー分光法を用いて行った。本年度は、触媒体をより耐酸化性の強いイリジウムに変えて、酸素/水素混合系、純酸素系、窒素酸化物系、水蒸気系などにおいて、酸素原子やOHラジカル等の酸化性ラジカルの検出と定量を行った。その結果、イリジウムを用いることで、純酸素系等でも触媒体の酸化を全く気にすることなく選択的に酸化性ラジカルを発生させることができること、純酸素系での酸素原子濃度は2×10^<12>cm^<-3>に達すること、酸素/水素混合系では、多量の酸素原子と水素原子を同時に発生させることができること、水蒸気/酸素混合系では、OHラジカル濃度をグロー放電を用いた場合の濃度に匹敵する2×10^<11> cm^<-3>にまで上げられることなどを見出した。これらの結果はイリジウム上での酸素原子の滞在時間が、タングステン上におけるものよりも短く、そのために触媒毒作用が小さいことを意味している。また、水蒸気を用いた場合のOH濃度の触媒体温度依存からは、OHラジカル放出の際の活性化エネルギーが、触媒体の被覆率に依存することが明らかとなった。
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