励起状態における水素結合に沿ったプロトン移動は、光に誘起されて水素が右から左に移動するという単純な化学反応であり、正確な測定と定量的理論解析に適している。また、プロトン移動は、それ自身興味深い反応であり、化学や生物学の領域で重要な役割を果たすことが知られている。これまでに研究代表者は、紫外線領域の励起状態におけるプロトン移動に対して波動関数の節に基づいた光化学反応の理論的モデル(節面モデル)を提案し、それを一般の光化学反応に拡張してきた。今回、分子内水素結合を持つ最も単純な芳香族分子であるサリチルアルデヒドとその関連分子の紫外可視領域の励起状態における分子内プロトン移動の高精度ab initio分子軌道計算を行い、節面モデルの予想が計算結果によってサポートされることがわかった。また、一重項酸素やフリーラジカルのような様々な活性酸素と生体内で抗酸化反応を起こすアロエ含有分子、ビタミンE、カテキン、フラボノイドについても紫外可視領域及び近赤外領域での研究を行った。さらに、2-ヒドロキシ-3-メトキシカルボニルナフタセンの合成に目処が立ち、励起状態における水素結合に沿ったプロトン移動の研究のための体制が整った。また、軟X線分光を用いてトリフルオロ酢酸などのカルボン酸クラスターの内殻励起後のプロトン移動の研究も継続して行った。
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