固体水素は分光実験から三つの相の存在が指摘されている。分子が自由に回転しているI相(低圧相)から非等方的回転状態のII相を経て、III相で分子の配向秩序が定まるものと考えられている。結晶構造に関しては、I相で中性子回折とX線回折からhcp構造であることが明らかにされている。II相については、我々を含めて二つの回折実験が行われており、いずれも水素分子の重心の位置はhcp格子点上からは殆ど移動していないと報告されている。 一方、II-III相転移では分子の伸縮振動の波数が不連続に変化するため、比較的大きな構造変化があるものと期待されている。そこでラマン分光で分子の伸縮振動をモニターし、II-III相転移を確認しながら、III相の回折実験を行った。 SPring-8 BL10ステーションでin situにラマン分光を行いながら、X線回折実験を行った。昨年、III相の予備的な回折実験を行ったが、本年はII-III相の転移を跨いで、広い圧力範囲での回折実験に成功した。転移時に回折パターンに大きな変化はなく、hcp格子で回折線は指数付けすることができた。しかし、c-軸は転移に際して、急激に短くなり、一方、a-軸は殆ど変化しなかった。これは分子軸がc-軸に垂直に配向することを意味していると解釈することができる。
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