近年、極低温下における量子凝縮系で生起する化学的なプロセスへの関心が高まっている。超流動状態にあるナノサイズの液滴ヘリウムを舞台として、その内部(あるいは表面)に捕捉された分子系が分光学的に測定可能となってきたことによりその興味は加速されている。媒体である超流動ヘリウムはその名が示すように粘性率がゼロで特徴づけられる量子力学的な液体状態である。このような特異な環境下での化学的なプロセスはどのようなものになるであろうか?ナノ液滴を用いた実験技術の進歩によりこの問いに鋭く迫ることが可能になってきた。これまでの分光実験から、液滴内の化学的なダイナミクスは様々な"奇妙な"振る舞いを示すということが明らかになってきた。液滴に捕捉されたこの分子の赤外スペクトルはあたかも真空で自由回転しているような振る舞いを示す。本研究課題では、この超流動クラスター内での分子過程の微視的な描像を確立するために、新規量子シミュレーション手法の開発も含めて理論的に研究を行う。
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