平成20年度は、分子座標系光電子角度分布(MFPAD)を測定する上で、高分解能と高効率を両立するための新しい手法を、シミュレーションにより検討した。減速レンズ付きの電子飛行時間(eTOF)分析器により、500eVの運動エネルギー(KE)の電子を分解能1000以上で測定できることがわかった。検討したeTOFのイオン光学系は円筒形の8つの素子からなり、内径25mm・全長は500mmである。これらを並列化して光電子を検出し、解離イオンを運動量画像計測することにより、高運動エネルギー分解能のMFPADを高い運動エネルギーまで測定するための装置の実現化の目処がついた。 一方で、気相分子からの高いKE光電子について、低分解能ではあるが、効率的に測定することによる研究を、コインシデンス運動量画像装置(CO-VIS)を用いて進めた。CO分子について、KE〜150eVまでのMFPADデータを解析したところ、前方散乱の強度は50eVから100eVまで緩やかに増加し、100eVを超えたところでほぼ一定となった。後方散乱の強度は、50eVから120eVまで大きく減少し、その後、増大した。この傾向は、炭素K端と酸素K端で同じであり、EXAFSスペクトルに現れる振動構造と同じ起源である。このことは、気相分子における結合長の決定が可能であることを示唆している。また、多重散乱法に基づく理論計算により、この傾向が再現され、シミュレーション的な計算により、必要となる散乱回数、散乱部分波の角運度量が明らかになった。さらに現在、CO_2分子についての解析を進めている。また、CO-VISを用いた非直線分子および希ガスクラスターのMFPAD測定とそれらの解析に協力した。
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