気相分子からの比較的高い運動エネルギー(KE≦150eV)を持つ内殻光電子について、コインシデンス運動量画像装置を用いて、分子座標系での光電子角度分布測定による研究を進めた。CO分子について、KEが50から150eVまでの領域において、炭素K端と酸素K端ともに、前方散乱強度は緩やかに増大し、後方散乱強度は大きく変動する結果が得られており、単純なモデルポテンシャルを用いた多重散乱理論の枠組みにおいてこの傾向が再現できることが明らかになった。これまでの結果は、従来の方法では困難である、気相分子についての広域X線吸収微細構造スペクトルを感度良く測定することが可能であることを示唆している。CO_2分子について解離反跳軸に対する光電子角度分布(RFPAD)測定の結果の解析を進め、CO分子との比較により、酸素K端の光電離では、内殻ホールが生成した酸素原子側の結合がある程度選択的に切断されている可能性があることが実験的に明らかになった。さらに、現在、理論計算による解析を進めている。CO_2分子についてもRFPAD測定を行い、RFPADの非対称性が見られる結果が得られており、その起源について検討を進めている。また、H_2O分子について、各対称性の酸素ls光電離チャンネルを分離し、分子座標系光電子角度分布の情報を得ることに成功した。これは、光電離の立体ダイナミクスの初めの一歩となる成果である。得られた結果は、光電子散乱波と直接波との干渉という比較的簡単なモデルでその形状が説明できることを示した。
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