本研究では、フラグメント分子軌道(FMO)法の開発を継続し、下記の成果を得た。 (1)基底関数重ね合せ誤差(BSSE)は、中程度の基底関数を用いた計算では、その補正を行うことが標準的になっている。ハートリー・フォック(HF)の波動関数に基づいて分子内BSSE補正法を分子集合体用に開発した。FMO法の枠内でBSSE補正を考える際に、二体展開でBSSE補正を取り込み、分かっている水三量体を対象として分子間相互作用を小分子間BBSE標準法である均衡補正とFMO法で比較して検討した。 (2)FMO法は1999年北浦らにより提案されてから、蛋白質と基質の相互作用を始め、創薬や分子動学等に幅広く開発され、適用が進んでいる。理論と適用の進歩を纏めて、FMO法による蛋白質内相互作用解析を表紙に載せ、FMO法の論評を特殊論文として発表した。 (3)今までのFMO法は主に基底状態に使われたが、光合成を始め、生体における様々な過程では励起状態が重要な役割を果たしている。その為に、FMO法に基づいて、巨大分子用の時間依存電子密度汎関数論(TDDFT)を開発した。高速版として、一体展開の二階層法では、励起が起こる中心の領域のみ全系静電場中TDDFTの計算を行い、高精度を以って励起の記述が出来る二体展開の一階層法では二体補正により静電場以外の環境影響は考慮される。 (4)開発したFMO法をGAMESSに組み込み、平成20年12月に無償公開した。
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