研究概要 |
「自己組織化能を有する分子」が集合した超分子構造体の研究が注目されている。これは、超分子構造とその物性に基づく新たな高次機能が期待されるためである。我々は、2-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール環状四量体を合成し、この物性を調査した結果、自己組織化によってナノチューブ構造を有する分子ワイヤが形成されることを発見した。このナノチューブの中央には水分子が包接されており、水分子の一次元ネットワーク構造が観測された。このように閉じ込められた空間に一次元配列している水分子の物性研究はほとんど行われていないことから、この水の性質は非常に興味深く新たな機能が期待される。元素分析による調査では、マクロサイクル分子の再結晶により水和物を与えた。これを減圧下で昇華すると無水物が得られ、再び再結晶を行うことによって水和物を得た。TGAおよびDSC測定では400℃まで水の放出は観測されず、常圧では400℃以下の高温でもナノチューブ構造が水分子をしっかりと閉じ込めていることが示された。IRスペクトル測定では、OH伸縮振動に対応するブロードピークが3457cm^<-1>に観測され、水分子は室温で会合型をとっていることが分かった。現在、高温状態でIRスペクトル測定を試みており、何度で非会合型に変化するか調査している。また、水分子の代わりにアンモニア分子の包接を試みた。アンモニアガスをバブリングした後に再結晶を行ったところ、アンモニア分子ではなく水分子が包接されることが分かった。これはナノチューブと水分子の親和性が高いためと考えられる。アンモニア分子の包接が可能かさらに調査している。本年度の研究によって、ナノチューブに閉じ込められた一次元水分子の性質が明らかになってきた。この一次元水分子配列を光ファイバのような信号媒体に利用できれば、この分子ワイヤは次世代のナノテクノロジーに応用できると期待される。
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