研究概要 |
ハイブリッド磁性材料の新規有機スピン源の開発を目的として,三重項カルベンの動力学的安定化用の立体保護基を備え,金属と強い磁気的相互作用が可能な配位子を有するジアゾ化合物を合成し,その光分解によって発生する三重項カルベンの特性化を行い,更にカルベン-金属錯体の磁気特性を評価した。 1.カルベン前駆体ジアゾ化合物の合成:9-アクリニジル基を有する三重項カルベンの前駆体として9-アクリジニル(フェニル)ジアゾメタンとそのN-オキシド体を合成した。 2.ESRスペクトルによる三重項カルベンの観測:77K,2-MTHF中上記ジアゾ化合物の光分解によって対応する三重項カルベンのESRシグナルを観測した。カルベンのシグナルはどちらも110Kで消失した。 3.低温マトリックス中UV/visスペクトルによる三重項カルベンの観測:上記ジアゾ化合物の光分解によって発生させた三重項カルベンのUV/visスペクトルは,アクリジニル体は361,426,536nmに観測され,100Kで消失した。一方,N-オキシド体は357,439nmに観測され,110Kで消失した。 4.室温溶液中の三重項カルベンの寿命測定:脱気ベンゼン中レーザー閃光光分解により,アクリジニル体は65μs,N-オキシド体は190μsの半減期を持ち,4-ピリジル(フェニル)カルベンよりも2桁長寿命であった。 5.カルベン-銅錯体の磁気的相互作用:N-オキシド体とCu(hfac)_2からなるカルベン-銅錯体はラジカルスピン源に比べて,2倍以上強い磁性的相互作用を示し,熱安定性も向上した。 以上のように,アクリジニル基はカルベンスピン源のよい配位子となることを明らかにじた。
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