研究概要 |
ハイブリッド磁性材料の新規有機スピン源の開発を目的として、カルベンの速度論的安定化用の立体保護基を備え、金属と強い磁気的相互作用が可能な配位子として2,7-ジ(tert-ブチル)アクリジニル基を有するジアゾ化合物を合成し、その光分解によって発生するカルベンの特性化と安定性の評価を行った。 2個の2,7-ジ(tert-ブチル)アクリジニル基を有する1,3-ジアゾメチルベンゼンの77K、2-MTHF中光分解において、五重項ビスカルベンのESRシグナルを観測した。また、同条件下のUV/vis測定では348-538nmにビスカルベンのUV/visスペクトルを観測した。このマトリックスの昇温実験の結果、このビスカルベンは90Kで消失した。一方、アクリジン環の窒素を酸化したN-オキシド体ビスカルベンにおいても、五重項のESRシグナルを観測し、また、302-466nmにビスカルベンの吸収スペクトルを観測した。このビスカルベンは110Kまで観測され、前述のビスカルベンよりも消失温度が20K高かった。このことから、アクリジニル基をN-オキシド化したほうが、磁性金属と配位しやすいだけでなく、熱安定性も向上することを明らかにした。 前年に合成した(9-アクリジニル)(フェニル)ジアゾメタンのp-位をベンゼン環の1,3,5位にエチニル基で連結したトリス(ジアゾ)化合物の77K、2-MTHF中光分解では、七重項、あるいは七重項と五重項の重なりと考えられる複雑なESRシグナルを観測した。昇温実験の結果、このシグナルは100Kで消失し、母体である(9-アクリジニル)(フェニル)カルベンと同程度の熱的安定性を示した。UV/vis測定では若干の長波長シフトがあるものの、母体カルベンと類似の吸収スペクトルを示した。これらの観測から、(9-アクリジニル)(フェニル)カルベンをエチニル基でメタフェニレン連結することで、母体カルベンユニットの熱安定性を有したまま、錯体形成可能な高スピンポリカルベンを構築できることを明らかにした。
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