フェナレニルを基盤とする一重項ビラジカル種に関し、アセチレンをリンカーとして用いた新規分子の合成、ならびに縮合多環型分子の二光子吸収およびFET特性を調べた。まず、アセチレンをリンカーとして用いた分子は、市販化合物から8段階で新規に合成した。量子化学計算によりビラジカル性が14%であるこの分子は、一電子酸化状態においてオンサイトクーロン反発が小さいことがわかり、その結晶は室温で金属的な挙動を示した。この結果により、一重項ビラジカル種の一電子酸化状態は、導電性物質のすぐれた構成成分となることが明らかとなった。一方、縮合多環型一重項ビラジカル分子に関しては、その機能性を引き出すため、二光子吸収測定やFET測定を行った。一重項ビラジカルの電子構造は、弱いπ結合性を有しているため電子雲が変形しやすく、すぐれた非線形光学応答を示すことが理論的に予測されていた。今回、二光子吸収を測定することで、一重項ビラジカル種が巨大な二光子吸収断面積を有していることを実験的に明らかにした。現在、我々が開発した分子は、単成分炭化水素の中ではもっとも大きな二光子吸収断面積を有している。また、一重項ビラジカル種の特徴の一つである分子間の不対電子間相互作用を利用し、電子やホールが移動しやすい条件を作り出すことで、両性FETデバイスとして振舞うことを実験的に明らかにした。
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