本課題研究では、アミノ酸架橋混合原子価鉄3核錯体を原料として混合原子価多核環状クラスターの合成を試み、これらの構造及び性質を調べることを目的とした。 昨年度は、以前に合成したL-プロリン架橋鉄12核環状クラスターと同じ合成法により、サルコシン架橋鉄12核環状クラスターを合成し、構造解析を行い、構造の比較を行った。 本年度は、先ず、昨年度に引き続き、L-プロリンとサルコシンの混合架橋鉄12核環状クラスターの合成を試みた。現在得られているデータによる解析では、3個のL-プロリンと9個のサルコシンを有する鉄12核環状クラスターであることが確認できているが、母液から取り出すと直ちに風解し、物性の測定までには至っていない。現在、安定な結晶の調製を試みている。 次に、鉄イオンにこだわらず、3価の金属イオンと2価の金属イオンとを含む異核多核環状クラスターの合成を試みた。その結果、ニッケルのアミノ酸錯体を架橋配位子としてランタノイドに反応させることにより新規環状4核錯体の合成に成功した。3価の金属イオンとしてガドリニウムイオン、2価の金属イオンとしてニッケルイオンを含み、L-プロリンによって架橋された環状4核錯体、[Gd_2Ni_2(pro)_4(NO_3)_6(CH_3CN)_4]、(Hpro=L-プロリン)を合成した。この環状錯体では、10配位のGdと6配位のNiが交互に配列し、金属間をL-プロリンが架橋している。各Gdには3つの硝酸イオンが2座配位し、各Niには2つのアセトニトリルが単座配位している。また、この錯体の磁気物性を測定したところ、基底状態S=9 (S_<Gd>=7/2、S_<Ni>=1)であり、弱い強磁性相互作用を示した。この結果をDalton Transactionsに投稿したところ、Hot Articleに選ばれ、更に、Inside Coverに採用された。
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