研究概要 |
前年度までは、二座キレート型チオラート類を用いた多核金属錯体の構造制御を検討してきたが、その手法を発展させ、三座チオラート配位子を用いた鉄スルフィド錯体の構築を開始した。[4Fe-4S]クラスターの3つの鉄にキレート配位できるトリチオールTemp(SH)3を設計、合成し、[Fe_4S_4(SEt)_4]^<2->との反応によって三座配位子と1つのエタンチオラートが配位した[Fe_4S_4(SEt)(TempS_3)]^<2->を合成した。これを出発物質とし、エタンチオラート配位子の選択的な置換反応を検討した。 硫化水素との反応では、ヒドロスルフィド基をもつ[Fe_4S_4(SH)(TempS_3)]^<2->が生成し、これを減圧下で処理すると、硫化水素の一部脱離をともなって2つ、もしくは3つの[4Fe-4S]クラスターがスルフィドによって連結されたクラスター{[Fe_4S_4(TempS_3)]_2(μ-S)}^<4->,{[Fe_4S_4(TempS_3)]_3(μ-S)}^<5->が生成することがわかった。またイミダゾール配位子(Im)をもつ[Fe_4S_4(Im)(TempS_3)]^-やカルボキシラートを有する[Fe_4S_4(O_2CR)(TempS_3)]^<2->を合成することにも成功し、これらの配位子を足がかりとした[4Fe-4S]クラスターの集積化が可能であることが明らかとなった。 これらの化合物は生物無機化学の面からも重要である。生体内には、[4Fe-4S]クラスターの3つの鉄上にシステインチオラートが配位し、残る一つの鉄上にヒスチジンイミダゾールやアスパラギン酸アニオンが配位した[4Fe-4S]クラスターが存在するが、その生物学的意義は未解明であり、本研究はその端緒を拓くものと期待される。
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