水素(H_2)は、各種物質の合成、還元、石油の水素化脱硫、水素化分解、燃料電池などの多様な用途があり、産業上のあらゆる分野で必要とされている。研究代表者は、最近、常温常圧水中の極めて温和な条件で、ギ酸を分解して水素を発生させる全く新しい有機金属イリジウムールテニウム複核金属錯体触媒を発見した。本申請研究では、この発見をベースに、さらにその触媒能の向上を目指して、ギ酸から効率良く水素を取りだすことのできる金属錯体触媒を開発することを目的とする。水中で単核金属錯体を触媒として用いてCO_2を水素によりギ酸に変換して固定化する技術と、本研究で開発するギ酸分解手法を組み合わせることで、水素発生と同時に生成するCO_2を再び水素貯蔵媒体として用いることで、CO_2を大気中に放出することなく循環させることができ、水中で稼働する水素発生-貯蔵システムが構築できる。有機金属イリジウム塩化物をトリアクア錯体へと変換し、これを別途、遷移金属アクア錯体と架橋型配位子とを反応させて得た遷移金属錯体と水中で混合して反応させ、イリジウムー遷移金属複核アクア錯体を得た。これにギ酸を反応させて新規複核金属ヒドリド錯体を得た。このヒドリド錯体のフェムト秒時間分解過渡吸収スペクトルによる3重項励起状態生成過程(項間交差)の観測とその速度論解析を行った。また、MLCT励起状態からの脱プロトン化過程の観測とその速度論解析を行ない、同時に脱プロトン化の量子収率も決定した。光励起により脱プロトン化して生成したイリジウム(I)中心にプロトンが再結合する過程は、生成する過渡種である低原子価(イリジウム(I))有機金属錯体をナノ秒時間分解過渡吸収スペクトルにより観測し、その速度論解析を行なった。各種複各金属錯体を水素発生の触媒として用い、水中での触媒的水素発生を試みた。
|