研究概要 |
21年度はカルボジホスホラン(Ph3P=C=PPh3)を反応性配位子としてとらえ、その新規な骨格変換反応を検討した。まず、ジクロロジベンゾニトリル白金錯体とヘキサフェニルカルボジホスホランとの反応を検討した。その結果、カルボジホスホラン炭素の白金への配位に伴い、P-Ph結合の開裂を伴ってこのPhがカルボジホスホラン炭素へ転位するという、先例のないP-C間Ph基転位反応が観測された。さらにここでは、1分子のベンゾニトリルがP=C二重結合へ挿入した新規なピンサー型骨格が形成されており、カルボジホスホラン配位子の大きな骨格変換反応が進行することがわかった。この生成物においては,カルボジホスホラン由来の中心炭素周りに新たに2つのC-C結合が生成している。また、ロジウムーカルボジホスホラン錯体において、金属中心の立体的、電子的環境によって、配位しているカルボジホスホランのP=C二重結合が開裂することを見出した。このとき、リンは新たにロジウムと結合するとともに、そのリン上のフェニル基の一つがカルボジホスホラン炭素に結合しており、結果としてC-C-Cピンサー骨格からP-C-Cピンサー骨格への異性化が進行することがわかった。 これらの反応は、カルボジホスホランの中心イリド炭素-遷移金属結合を保持したままP=C結合を切断し、直接これを新たな配位子骨格へ誘導できることを示すものである。すなわちカルボジホスホラン配位子は、新規な炭素供給源として機能すると期待でき、金属-炭素結合を有する有機金属錯体の合成ストラテジーに新しい道を開く意味でも興味深い。
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