研究課題
基盤研究(C)
本研究は、申請者が近年開発した新型炭素系配位子を用いた遷移金属錯体の構築とその機能開発を目的としている。均一系触媒に代表される高機能性遷移金属錯体の構築にはその支持配位子の選択が重要な鍵を握っている。カルベン様炭素配位子であるカルボジホスホラン(R3P=C=PR3)は触媒種の活性化と保護、反応の立体制御といった、支持配位子として求められる機能を高い次元で達成できると期待できる。具体的な研究計画は以下の通りである。(1)【ピンサー構造によって安定化された種々のカルボジホスホラン錯体の構造や金属中心との軌道相互作用の詳細を実験と計算の両面から検討し、新型炭素系配位子としてのカルボジホスホランの性質を深く理解する】(1)「機能化カルボジホスホランの新規合成法開拓と、そのピンサー型錯体への誘導ストラテジーの確立」ピンサー型カルボジホスホラン錯体の合成に関しては、すでにダブルオルトメタレーション法を開発している。本研究では遷移金属中心の立体的、電子的チューニングによって、オルトメタル化を自在に制御し、目的とする配位様式を有するカルボジホスホラン錯体を得るための合成法を確立する。さらに、近年盛んに開発されているBINAPのようなキレート型不斉リン化合物をカルボジホスホランのリンフラグメントとして導入することによって、容易に炭素原子周りにキラリティーを持たせることも可能と考えられる。このようにして得られるキラルなカルボジホスホランは新規な不斉合成触媒への応用が期待される。(2)「ピンサー型カルボジホスホラン錯体の構造と、その金属-炭素間結合の電子状態の解明」カルボジホスホランと遷移金属との結合性については、これまで基本的知見すら満足に得られていない。本研究では、このようなカルボジホスホラン錯体の金属-炭素結合における軌道間相互作用の詳細を構造解析や計算化学を通して解明し、その理解から化合物の安定性、反応性の予測へと展開する。(2)【カルボジホスホラン錯体の反応性の検討と、触媒反応への展開】従来のカルベン錯体やピンサー型錯体の反応性(例えばアルケン重合、Heck反応、Sonogashira反応、水素化反応など)とも比較しながらカルボジホスホラン配位子の個性を把握し、これを新規な機能開発につなげてゆく。(3)【遷移金属上でのカルボジホスホラン自身の反応性の検討】カルボジホスホランを新規な炭素供給源としてとらえ、種々の炭素結合性配位子(カーバイド、アルキリジン、カルベン、カルボニルなど)へと誘導する。この反応は様々な有機金属錯体の合成ストラテジーに新しい道を開く意味でも重要である。ここでは従来のリンイリドのP-C結合活性化の手法が適用可能であると考えられる。
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Organometallics 28
ページ: 539-546
Chemistry Letters 37
ページ: 166-167