研究概要 |
本研究では、まず磁気ゆらぎが強いと考えられる層状遷移金属化合物において、層間に種々の原子・分子を導入し、ナノスケールで物質・構造制御を行い、超伝導等の新奇量子臨界現象を示す層状遷移金属化合物を開発することを目的とした。層状三角格子を有するLi-Ti(v)-S系では,常圧において合成することができないことが知られているVS_2について,石英管封入法を用いてTiを酸素ゲッターとして入れ,V_5S_8相とLi_2Sを用いて,前駆体としてLi_<0.8>VS_2を合成し,物性を評価した.さらに,臭素アセトニトリル溶液,ヨウ素アセトニトリル溶液を用いて化学的にLiを脱離させることに成功した.磁化率測定の結果,低温で長距離磁気秩序を示すV_5S_8相と異なり,いずれのLi-V-S系化合物も低温まで磁気秩序を示さなかった.さらに電気抵抗率測定の結果,Li組成xが欠損するにつれて,電気抵抗率の絶対値が増大した.以上の結果から,Li_<0.8>VS_2は遍歴電子系であり通常の金属的な振舞いを示す一方,χの減少によって系の局在性が強まるとともに,スピンフラストレーションの影響が大きく現れると考えられる.また、金属絶縁体転移をともなうブロンズ関連化合物(Na-Ti-O系など)について,錯体重合法による合成方法を確立し,固相反応法で合成した試料と比較した.この錯体重合法で得られた試料について,Naのコンテントを制御することによる磁気的電気的特性変化を評価した.特に,高温X線回折の結果より,χ=0.2およびχ=0.23において500〜550K付近でα軸長の異常発散が見られ,過去に報告されているCDWがα軸方向に存在していることを示唆している.さらにこの異常発散の見られる温度と,高温での磁化率測定での極大の見られる温度がほぼ一致していることから,α軸方向のCDWが磁気転移温度に関係していると考えられる.したがって,層間距離やキャリアー濃度などを変化させることによってCDWへの転移温度を下げることができれば超伝導が発現することが予想される.
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