研究概要 |
本年度は擬一次元磁性体Y_5Re_2O_<12>について,合成およびYサイトへの元素置換を行ない,その電磁気特性を評価することで,多重極限環境における構造と物性の関連を詳細に研究した.擬一次元磁性体Y_5Re_2O_<12>はその構造中に[ReO_4]_n鎖と,磁性鎖から独立した二次元Y_5O_4四面体骨格を持ち,ab平面においてRe鎖がY_5O_4四面体骨格によって分離された構造を有する.磁化率はS=1/2の一次元反強磁性ハイゼンベルグモデル(Bonner-Fisher (BF)モデル)に適合する.Luを置換した化合物Y_<5-x>Lu_xRe_2O_<12>において,x=0.0〜4.0で単一相が得られ,この際,格子が収縮することによりRe磁性鎖に対して化学的な圧力が生じたと考えられる.また,磁化率は全組成の試料において一次元磁性体に特徴的なブロードなピークを示した.フィッティングの結果,スピン間の相互作用の大きさを示すJ/k_Bの値がxの増加にともなって減少したことから,格子が加圧され,結晶構造が変化することにより,隣接スピン間に働く相互作用が減少することが明らかになった.さらに,格子を物理的に加圧しながら磁化率を測定したところ,鎖内の原子間距離が減少することによってスピン間相互作用が増大する一方で,磁性鎖間の距離が減少することによって系の三次元性が増大し,一次元的な磁気秩序が低下することが明らかになった.一方,電気抵抗率は,系内に存在する電子のもつ高い局在性の影響を受け,全組成において非常に大きな絶対値を示したが,Lu置換によってバンドの重なりが大きくなることにより伝導性が増大する傾向が観察された.以上の結果より,擬一次元磁性体への圧力印加は,結晶構造の三次元性を高め,電子の遍歴性を増大させることにより,系の電磁気特性を著しく変化させる効果を有することが明らかになった.
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