ナノメートルサイズの空間を内部に持つ多孔質材料は吸着、分離、触媒等の機能を持つ。ナノ空間内表面の性質はそれらの機能と密接に関係しており、本研究ではプローブ分子を用いた固体NMR法によりナノ空間内表面の性質を明らかにすることを目的としている。平成19年度は空気中の湿気に対するローター(試料を高速回転させるための特殊な試料管)の気密性を確認したが、平成20年度は、ガス状物質に対するローターの気密性をテストする方法を考案して実施し、ガス状物質に対してもある程度の気密性を持つことを確認した。さらに、ナノ空間内表面の性質を調べるプローブ分子として、トリメチルホスフィンオキシドを選択した。トリメチルホスフィンオキシドは塩基性分子であり、ナノ空間の壁の酸点と相互作用を行う。このプローブ分子を空気中の水分が混入しない状態で、かつ量を制御して試料への導入を行った。この試料について、^1H、^<13>C、^<31>P NMR測定を行い、試料調製上のいくつかの問題点を明らかにした。一つは、プローブ分子を溶媒に溶かして導入したが、溶媒分子も同時に吸着してしまうこと、もう一つは、溶媒を除去する場合にプローブ分子も一部除去されてしまうことである。従来の報告では全くふれられていなかったことである。溶媒の除去条件について検討が必要である。また、溶媒を用いないでプローブ分子を導入する方法についても検討の余地がある。ナノ空間に導入されたトリメチルホスフィンオキシドの^<31>P NMRシグナルは40-80ppmにわたって観測され、ナノ空間の壁の酸強度を反映したスペクトルを示した。溶媒分子の影響を除いたスペクトルを観測することができれば、酸強度の分布を示したスペクトルとなることが期待される。また、シグナル強度から酸点の定量も期待できる。
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