ナノメートルサイズの空間を内部に持つ多孔質材料は吸着、分離、触媒等の機能を持つ。ナノ空間内表面の性質はそれらの機能と密接に関係しており、本研究ではプローブ分子を用いた固体NMR法によりナノ空間内表面の性質を明らかにすることを目的としている。ナノ空間内表面の性質を調べるプローブ分子として、トリメチルホスフィンオキシドを選択した。トリメチルホスフィンオキシドは塩基性分子であり、ナノ空間の壁の酸点と相互作用を行う。平成20年度までに、試料調製上のいくつかの問題点を明らかにした。一つは、プローブ分子を溶媒に溶かして導入したところ、溶媒分子も同時に吸着してしまった。平成21年度は、溶媒分子の影響を除くために、溶媒を用いない気相吸着法を提案し、実際にプローブ分子を気相からゼオライトの一種であるモルデナイトに導入して固体NMRスペクトルの観測を行った。その結果、ナノ空間内表面の酸強度分布を反映し、溶媒分子の影響の無いスペクトルが得られた。モルデナイトでは、Si/Al比が高くなるにつれてプローブ分子の化学シフトが増加する傾向が見られ、酸強度が高くなることが示された。温度変化測定をしたところ、温度の上昇によりスペクトルの形の変化が観測された。温度上昇に伴い、吸着したプローブ分子が動いたことが示された。今回用いた気相吸着法では、プローブ分子の吸着量が非常に少なかった。酸量に見合ったプローブ分子が導入できる条件についての検討が必要である。従来、プローブ分子であるトリメチルホスフィンオキシドは有機溶媒に溶かしてナノ空間へ導入されてきた。溶媒分子は真空排気により容易に脱離すると信じられてきた。しかし、実際には脱離しないでナノ空間に残る溶媒分子が観測された。種々のゼオライトについて脱離しないで残る溶媒分子の吸着状態および吸着量を固体NMRによって調べ、酸強度、酸量、骨格構造などとの関係について検討を行った。
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