研究概要 |
本年度は,2,3-dioxopyridine(pyO^<22->)を架橋配位子とする三種類の有機金属錯体,[(P-cymene)Ru(pyO_2)]_3 (1),[Cp*Rh(pyO_2)]_3 (2),[(1,3,5-trimethylbenzene)Ru(pyO2)]3 (3)について研究を行った。このうち3は当研究室で初めて合成したものである。これらの錯体を中性配位子(L)として用い,ジクロロメタン/水系におけるアルカリ金属ピクリン酸塩(MA, M^+=Li^+, Na^+,K~+)に対する抽出挙動を詳しく調べた。 M^+の抽出速度は非常に遅く,平衡到達までに1では0.5-1h,2では30h,3では20h以上の振り混ぜが必要であった。また,この振り混ぜ時間内では,Lの分解および水相への分配はほとんど見られなかった。抽出平衡の解析により,抽出化学種が三元体MLAであることを確認し,抽出平衡定数(K^<ex>[MLA]_。/[M^+][L]_。[A-],0は有機相)を決定した。 K^<ex>の値はLi^+>Na^+K^+の順にM^+のサイズが大きくなるにつれて減少し,これらの環状錯体がLi^+選択性であることが示された。 Li^+に対する抽出能は3≧1>>2,Li^+/Na^+選択能は3>2>>1であり, Li^+選択性抽出剤として筆者らが合成した3が最も優れていることがわかった。また,Li+に対する3の抽出能と選択能は,市販のLi^+選択性クラウンエーテル(dibenzyl-14-crown-4)をはるかに凌ぐものであった。これらの環状錯体の高い抽出選択能は,M^+の結合部位(3つの酸素原子からなる空孔)に対するπ配位子の立体障害に起因するものと推測された。
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