研究概要 |
【1】2,3-dioxopyridine(pyO_2^<2->)を架橋配位子とする4種類の大環状三核ルテニウム錯体,[(1,2,3-trimethylbenzene)Ru(pyO_2)]_3(4),[(1,3,5-triethylbenzene)Ru(pyO_2)]_3(5),[(l,2,4,5-tetramethyl-benzene)Ru(pyO_2)]_3(6)及び[(hexamethylbenzene)Ru(pyO_2)]_3(7)を新たに合成し,これらの錯体のLi^+及びNa^+に対する溶媒抽出挙動(有機溶媒=CH_2C1_2,対イオン=ピクリン酸イオン)を平衡論的に評価した。また,昨年度合成した[ρ-cymene)Ru(pyO_2)]_3(1)や[(1,3,5-trimethylbenzene)Ru(py_2)]_3(3)とも比較し,Ruに結合するπ配位子の立体効果を考察した。5は,1や3と同様に,CH_2C1_2/H_2O系で安定であったが,7は非常に不安定であった。4と6はやや不安定で,徐々に分解が見られた。4,5,6について抽出平衡定数を決定した結果,Li+抽出能は4>6>3>1>5,Li^+/Na^+抽出選択能は3≒6>5≫4>1であることが示された。中心の3つの酸素原子(アルカリ金属イオンが結合する部分)をπ配位子のアルキル基が効果的に遮蔽することによって,Li^+に対する高い選択能が発揮されることを明らかにした。 【2】我々が合成した3は,これまでに報告されているあらゆるLi^+選択性イオノホアの中で,最も優れたLi^+抽出選択能を有する。そこで,3を用いて人工海水からのLi^+の抽出分離を検討した。海水にはLi^+の2万倍量(物質量比)のNa^+が存在するため,3を用いてもLi^+が定量的に抽出される条件では相当量のNa^+の共抽出が認められた。しかし,抽出後の有機相を純水と短時間振り混ぜることで,Na^+だけが水相へ定量的に逆抽出され,Li^+とNa^+をほぼ完全に分離できた。これは簡単な溶媒抽出法のみによって海水からLi^+を分離した最初の例として意義がある。
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