現在、世界で使用されている人工化学物質の総数だけでも、1000万種類を超えているといわれ、しかも、その数は年々増加している。しかし、その殆どの化学物質の生体への毒性は明らかにされていない。化学物質の生体への毒性は今まで人間への被害報告で分かったものが多いが、現在動物実験あるいはin-vitro細胞培養実験で研究されるようになった。一方、ある化学物質が細胞に対して強い毒性を示す場合、その化学物質の存在により生存細胞が死滅したり、細胞膜内外の物質輸送が著しく変化したりするので、細胞膜近傍を通すプローブ光の偏向信号が大きく変化する。従って、プローブ光の偏向信号をモニタリング、解析することにより、化学物質の細胞への毒性を迅速に判別できると考えられる。本研究はこの発想に基づいて、単一細胞の細胞膜近傍を通すプローブ光の偏向を測定することにより、化学物質の細胞への毒性を迅速的に判定しようとしている。 人工肝臓にもしばしば用いられるHepG2細胞を培養液(10%FBS、DMEM)で培養した。培養した細胞の近傍にプローブ光をあて偏向信号を測定した。また、紫外可視光のHepG2細胞への殺傷力を検討した。結果として、310nm以上の紫外可視光で照射する場合、10分間の照射でほぼすべての細胞を死滅したことを明らかかに下。次に、照射光の波長の影響を調べた。その結果、330nm〜350nmあたりの紫外可視光が細胞へ殺傷力があることが分かった。さらに、生きている細胞に紫外可視光を連続照射しながら偏向信号の変化をモニタリングできる測定系を作成した。紫外線でHepG2細胞を連続照射し、一定時間後細胞は死滅することを確認した。また、細胞死滅する前に大きな偏向信号を示すことも分かった。 また、過酸化水素のHepG2細胞への殺傷力も明らかにした。培養液に過酸化水素の濃度が10^<-4>mol/L程度になると細胞の生存率が低くなることが分かった。従来の培養実験で得た過酸化水素の毒性に関する知見は偏向測定法とほぼ一致した。 更に、細胞膜輸送物質の同定と定量を目指すキャピラリー電気泳動分析も行った。
|