研究概要 |
本課題は、広く用いられているシリンジを、溶液の採取のみならず反応、検出あるいは濃縮の場として利用する簡易な分析法を目的としたものである。通常の分析法では、バッチ法といい、反応容器に順次分析に用いる試薬や試料溶液を採り、混合・反応させた後に分析装置に持って行き、測定する必要がある。このため、手間や多くの試薬が必要となってしまう。そこで、通常は溶液の採取に用いるシリンジ内で分析に必要な操作を行うことで、省力化と省試薬化を目指し、シリンジに取り付けられる吸光度検出器を開発し、性能を評価した。試作した吸光度検出器は3色のLED(赤、緑、青)を光源とし、フォトダイオードを光検出器とした小型の物である。光源とシリンジ、及びシリンジと光検出器をプラスチックコアの光ファイバーで結合することで、シリンジ内の溶液の吸光度を測定できるようにした。鉄の1,10-フェナントロリン錯体をモデル反応として、混合操作を検討したところ、シリンジ先端に内径1mmのテフロン管100mmを取り付け、プランジャー部を上下させることで効率よく混合できることがわかり、試薬スケールとして100μL程度でも精度よく鉄を定量できるようになった。また、吸光光度法では、光路長(光が通過する長さ)が感度を決定する要因となるので、内径2mm程度のシリンジを用いた場合には、通常の10mmガラスセルよりも感度が1/5となる。この欠点を解消するため、活性炭カラムを用いて生成した錯体の濃縮法を検討した。予め2.5mLのシリンジ内で混合・反応操作を行って鉄錯体を生成し、シリンジ先端に活性炭カラムを接続して溶液を通じ、錯体を捕集する。続いて250μLシリンジにカラムを接続し、少量のアセトンで錯体を溶離し、このアセトン溶液の吸光度を測定することで10倍程度の高感度化を達成できた。全体として簡便な機器、操作でありながら、実用的な感度を有する分析法を開発できた。
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