研究概要 |
試薬や試料の採取に用いられるシリンジを、採取だけでなく反応、濃縮及び検出場として用いることにより、分析に要する試薬量の低減及び分析操作の簡便化を目的とした。反応用のシリンジ内で鉄の1,10-フェナントロリン錯体を生成した後、シリンジ先端に活性炭を保持したカラムを取り付けて通液することにより、発色した鉄錯体を捕集し、続いて測定用のシリンジにカラムを付け替えて、少量のアセトンにより錯体を溶離して鉄を吸光度定量する方法に関して、分析条件を最適化して感度の向上を図るとともに、実際試料として河川水中の鉄の定量を試みた。結果、20μg/Lの検出限界を達成でき、河川水試料を分析したところ、数十μg/Lレベルの鉄を定量できた。また、この結果は黒鉛炉原子吸光法とも非常によく一致し、一般的な分析法の1/10以下の試薬使用量で簡便な装置にも関わらず優れた性能を有していた。続いて、より操作を簡便にするため、1本のシリンジ内で溶媒抽出まで行い、そのまま定量する方法を検討した。活性炭を用いる濃縮法と同等の感度を得ることができたが、シリンジ内での水と有機溶媒の分相が困難であり、測定精度は悪化してしまった。水溶液と溶媒の分相に関して、さらに検討が必要である。最後に、一般的に多量の試料を採取することができない、生体関連物質の分析への応用を試みた。市販のヒト免疫グロブリン定量キットを利用し、通常のマイクロプレートリーダーを用いる吸光定量法との比較を行なった。このキットは、抗体で修飾したポリスチレンビーズが抗原であるグロブリンを添加すると凝集することにより散乱光強度が減少することを吸光度の変化として検出し定量する。マイクロプレートリーダーで作成した検量線と同等な精度、感度を有する検量線を得ることができ、本法が生体関連物質の分析にも適用可能であることを実証できた。
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