前年度に開発した水熱分解システムを応用して、実際の架橋高分子材料のネットワーク構造解析を試みた。試料には、アクリル系モノマーと光開始剤から紫外線照射を介して重合および硬化が進行する、紫外線硬化樹脂を用いた。まず、分解温度および添加剤の種類などに注目して、樹脂試料の水熱分解条件について最適化を行った。その結果、添加剤として有機アルカリの一種である水酸化テトラメチルアンモニウムを共存させ、260℃において樹脂試料を水熱分解することにより、樹脂中の架橋部分をアクリル酸単位の連鎖として、効率よく切り出せることを見出した。そこで、得られた水熱分解物試料を、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)測定に供し、当該樹脂の架橋部分の構造解析を行った。ここでは、ポリアクリル酸標準試料を用いて測定諸条件を適正化した結果、マトリックス試薬およびイオン化助剤として、それぞれインドールアクリル酸およびヨウ化ナトリウムを用いることにした。この条件下で得られたMALDI質量スペクトル上には、紫外線硬化樹脂における架橋点を反映した、ポリアクリル酸に由来するイオンピークが明瞭に観測された。これらのピークのm/z値から、当該樹脂試料における架橋点の最大連鎖長は約35単位であることが明らかになるなど、架橋部分の詳細な分子構造を解明できた。 さらに、この水熱プロセスを発展的に応用することにより、1)廃棄木材中に含まれる縮合型タンニンの迅速クリーン抽出システムや、2)ワンステップメチル化GCによるポリエチレンテレフタレートの水熱モノマー回収率の簡易評価法などを開発することに成功した。
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