本研究の最終年度には、前年度に開発したビームガイドを活用して小型で効率よくイオンを取り込める大気圧質量分析装置を用いて、ESIおよびLDIイオン源におけるイオン生成の最適化を行うべくテスト実験を繰り返すと共に、ビームガイド中をガス流と共に移動させてトラップした分子イオンの内部エネルギーの冷却の程度を判定するため「フラーレン分子負イオンのレーザー照射による電子脱離実験」に取り組んだ。 LDIにおけるイオン生成の最適化条件の探索によって、試料を塗布した回転ディスク上にレーザーを点集光させて超低速で走査する螺旋軌道照射でイオンを脱離させると低出力のレーザー光でイオンを長時間安定に連続供給できることを見出した。これにより、C^-_(60)イオンのレーザー照射による電子脱離実験を成功させることができ、C^-_(60)イオンは355nmの3倍波YAGレーザー光では1光子吸収で電子脱離できるが、532nmの2倍波レーザー光では電子脱離には2光子吸収が必要であることが判明した。このことから、ビームガイド中をガス流とともに下流に搬送されてトラップされる分子イオンは運動エネルギーのみならず内部エネルギーも基底の電子状態あるいはその近傍にまで十分冷却されていることが確認された。 この結果、本研究により、ビームガイドの活用は、差動排気系の簡素化・小型化、および、イオンの輸送効率向上に威力を発揮しただけでなく、イオンの運動エネルギーのみならず内部エネルギーをも冷却する効果にも有用であることが実証された。
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