現代の合成有機化学において立体選択的反応、なかでも新規エナンチオ選択的反応の開発は最も重要な研究課題の一つである。創薬化学をはじめとするファインケミカル工業においては、キラルな化合物を単一のエナンチオマーとして供給することが求められており、不斉合成反応は非常に有効な手段となっている。光学活性化合物を得るための有効なアプローチとして、均一系遷移金属触媒を用いる不斉反応があるが、高いエナンチオ選択性発現のためには「効果的な不斉配位子」の設計が鍵となる。従来より多くの優れた不斉配位子が報告されているが、触媒的不斉合成の対象となる反応のバリエーションの広がりとともに、依然として新たな設計に基づく不斉配位子へのニーズは高い。 本研究では、環構造を縮環させることにより立体配座の自由度を規制した共役ジエン構造に基づく螺旋不斉を基とする新規ジホスフィン配位子を設計し、その合成を行った.設計した螺旋不斉ジエンホスフィン類は、ジルコニウムを利用した反応によりマクロスケールで合成することができた。また、得られたラセミ体の化合物は、キラルHPLCにより2つのエナンチオマーに分割することができ、それらのエナンチオマーが熱的に安定な異性体として存在できる事を確認した。さらには、ジホスフィンオキシドが酒石酸誘導体との分子錯体を形成させることにより2つのエナンチオメーに効率良く分割することができることを見出した. 一方、分割した光学活性体のジホスフィンオキシドは、通常のシランによる還元条件では炭素-リン結合の開裂がおこり、目的とするボスフィンを得る事はできなかった。 光学活性ジホスフィンオキシドを、不斉有機触媒としてアリルシランによる不斉アリル化に応用したところ、binap dioxideと同程度の不斉誘起能を示した。
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