平成19年度には、予備的に見いだされていたアリールオキソルテニウム(II)錯体の酸による炭素-水素結合の切断反応の機構的な解明を行った。すなわち、RuCp[OC_6H_4(CH_2CH=CH_2)-2](PPh_3)(1)は、酸との反応により炭素-水素結合が切断され、π-アリル錯体RuCp[η^3-CH_2CHCH(C_6H_4OH-2)](PPh_3)(3)を与える。熱力学的な解析により、1は、ビスホスフィン錯体RuCp[OC_6H_4(CH_2CH=CH_2)-2](PPh_3)_2(2)と平衡混合物であり、酸(HX)の存在下では、1は、1当量の酸と会合体を形成し、1・HXを速い平衡混合物として生成する。動力学的検討により1と酸との反応は、錯体濃度に対して1次反応であり、酸の濃度に対しては2次反応であった。また、溶媒効果の検討により非極性溶媒中で速い反応であることが明らかとなった。これらの事実などから、1は、1等量の酸によりアリールオキソ基の酸素との間で水素結合を形成すると考えられ、この酸会合体が2等量目の酸とアリールオキソ基の2番目のローンペアと水素結合を形成し、6員環遷移状態を経由して結合切断反応が進行することを明らかにした。このような2分子の酸によって促進される結合切断反応の例はなく、新しいタイプの結合切断メカニズムとして興味深い。これらの成果は、錯体化学討論会、日本化学会春季年会等で成果発表を行なうとともに、現在、論文を投稿中である。
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