これまでにアルコキソまたはアリールオキソ後周期遷移金属錯体が塩基性を持つ事は知られていたが、従来の例ではブレンステッド酸と反応させた場合、例外なくアルコキソやアリールオキソのプロトン分解が進行し、アルコールやフェノール誘導体を発生する。しかし(2-アリルフェノキソ)ルテニウム(II)錯体の場合には、ブレンステッド酸との反応により、アリル基の炭素-水素結合が切断され、πアリル錯体になることをはじめて見出した。平成20年度には、RuCp(OAr)L_nをこの錯体と各種ブレンステッド酸との詳細な動力学的および熱力学的検討により、ブレンステッド酸の水素原子がアリールオキソ基の酸素原子と水素結合し、同時にブレンステッド酸の共役塩基部分が2-アリル基ベンジル位のメチレン水素の1つと水素結合した6員環会合状態を形成することが明らかとなった。また、酸素原子上の残りの孤立電子対にもう1分子のブレンステッド酸の水素が水素結合することによりベンジル位の炭素-水素結合が切断されることが明らかとなった。このように本研究は、ブレンステッド酸との反応により炭素-水素結合が切断され、その機構が明らかとなったはじめての例であり、新しい結合切断機構として興味が持たれる。本研究成果はアメリカ化学会が発行するOrganometallics誌において掲載されるとともに、2008年にフランスで開催された第23回有機金属化学国際会議において、Recognition of Innovative Work in the Field of Organomet allicsとして学会ポスター賞を受賞した。
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