研究概要 |
鉄塩およびコバルト塩触媒によるチオール類の不斉マイケル付加として(E)-3-crotonoyloxazolidin-2-oneへの反応を試みた.その結果,鉄塩触媒としてFe(BF_4)_2・6H_2Oに光学活性な(S,S)-ip-Pybox配位子を組み込んだルイス酸触媒によって目的の不斉マイケル付加が進行し,最高95%ee(収率92%)でマイケル付加体が得られることを見いだした.また,Co(ClO_4)_2・6H_2Oと(S,S)-ip-Pyboxとからなるキラルコバルト触媒によっても同じ反応が同程度の反応性およびエナンチオ選択性で進行する事を見いだし,α,β-不飽和カルボニル化合物に硫黄原子を高エナンチオ選択的に導入する事に成功した. 本反応で得られるマイケル付加体は既に医薬品合成中間体として知られており,実用面においても価値のある反応である.また,本反応の実現によって,これまで不斉合成反応には不向きとされてきたコバルトや鉄などの元素が精密有機合成反応に利用可能である事を示す事に成功した. また,本研究の過程において3位置換チオフェン誘導体のナザロフ型環化反応の開発にも成功した.本反応は含ケイ素誘導体に対して当量の鉄塩を用いた例が2例報告されていただけであるが,今回の研究においてケイ素原子を含まない3位置換チオフェン誘導体が触媒量の塩化鉄(III)のよって定量的に環化し縮環型チオフェン誘導体へと効率的に変換できる事を見いだした.現段階では不斉反応化には至っていないが,チオフェン誘導体は様々な機能性物質として利用されている事から,本反応は有用な触媒反応の一つと考えられる.
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