研究概要 |
本研究では,コンビナトリアル化学の新しい手法である動的コンビナトリアル化学を利用して,キラル化合物の鏡像体の一方をエナンチオ選択的に取り込むリセプター(受容体,ホスト分子)を合成する新たな手法の開発を目指した.具体的には,大環状化合物であるシクロデキストリンを骨格として選び,これに3つ以上の異なる置換基を位置選択的に導入して,高いエナンチオ選択性をもつリセプター分子を合成することを目標とした.シクロデキストリンのマクロ環上における官能基の導入位置を制御するために,ターゲットとするリガンドをテンプレートとして利用し,動的コンビナトリアル化学の手法によって,もっともリガンドの捕捉に適した位置だけに官能基が導入されるように誘導した. メルカプト基を有するクラウンエーテル誘導体のジスルフィドと,acetylthio基を有するシクロデキストリン誘導体を合成した.この二つの化合物の混合液をルテニウム錯体存在下で加熱すると,クラウンエーテル誘導体は可逆な反応によってシクロデキストリンと結合し,さまざまな置換位置異性体のライブラリーが形成された.ここにα,ω-ジアミンを添加すると,ジアミンの鎖長に応じて特定の異性体が増幅された. 現在のところ,まだ,キラリティーの認識には到達していないが,動的コンビナトリアル化学の手法によって位置選択的な置換反応を行うことの可能性が検証でき,今後の人工リセプター合成に新たな道を切り開くことができた.
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