研究概要 |
本年度は[10]パラピリジノファン骨格を有するC2対称ビピリジノファン配位子の合成法,およびその不斉シクロプロパン化反応について検討した. 2位にBrを導入したパラピリジノファン誘導体を用いてNi(ll)存在下にホモカップリング反応を行い,目的とする(s,s)-ビピリジノファンを収率78%で合成した.また,このビピリジノファンのX線結晶構造解析を行った結果,架橋鎖同士の反発のためビピリジン部位は平面とはならず,約60度の二面角を有するねじれた構造であることが明らかとなった. 一方,(S,S)-ビピリジノファンを銅触媒配位子として用い,ジアゾ酢酸エチルとの不斉シクロプロパン化反応について検討した.ピリジン環3位に様々な置換基を有する複数のビピリジノファン誘導体を用いて反応を検討したところ,いずれの反応においてもトランス選択的なシクロプロパン化反応が進行し,トランス体では(1S,2S)体が78%eeで,シス体では(1S,2R)体が83%eeで得られ,良好なエナンチオ選択性で光学活性シクロプロパンを与えることを見いだした.この結果は,C2対称の面不斉を有するビピリジノファン骨格が高度な不斉誘導機能を有することを初めて示した例である.一方ジアゾ酢酸のt-ブチルエステルについても検討したところ,立体障害のため収率は低下したが,トランス体の不斉収率は83%eeに向上することが分かった.本反応では,ビピリジノファンの配位空間が比較的狭いため,ピリジノファン上の置換基による押し出し効果は不斉収率に影響を与えず,面不斉ターピリジンの場合とは対称的な結果となった.
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