昨年度まで継続してきた過シュウ酸エステル化学発光のメカニズムの研究において、含窒素化合物などの電子供与物質を添加すると発光が消光されることを明らかにしている。これは、化学発光反応で生じる高エネルギー中間体である環状過酸化物と電子放出能の高い配位子との間の相互作用により、蛍光剤とのCIEEL阻害が起こることによる。一方、配位子に金属イオンなどが配位してその電子放出能が減少するとCIEEL阻害が解除され、蛍光剤の励起状態が生成し発光が観測される。したがってCIEELスウィッチングが形成されることになる。このことを利用して金属イオンや特定の分子のセンシングへ展開することを目指し検討を行った。はじめに、配位子としてアザクラウン部位が結合したアントラセン誘導体を過シュウ酸エステル化学発光系に共存させると、アザクラウン部位に適合する金属イオンの有無により発光を制御できることがわかった。ただし、これは分子内でのPET蛍光消光によるスウィッチングによるものである。次に、配位子と蛍光剤を別々の分子として共存させた場合について検討したところ、アザクラウンエーテルだけの存在下では発光が消光されるが、特定の金属イオン添加により発光が回復することが観測された。この場合では配位子からの電子移動による分子間PET蛍光消光に起因する化学発光消光ではないことがスペクトル測定により確認されている。したがって、高エネルギー中間体との相互作用によるCIEELスウィッチングであることが強く支持される。また、特に新たに合成した簡単な構造を有する配位子は亜鉛イオンおよび銅イオンに選択的に配位し、これらの金属イオンに対する化学発光のスウィッチングシステムを構築できることが明らかになった。以上の方法では蛍光剤と配位子の様々な組み合わせが可能であるので適用範囲が広くなることが期待される。
|