研究概要 |
近年シリコンデバイスの超微細化および高集積化の進展とともに,半導体集積化技術には電子伝導に伴う様々な問題が顕在化している。そのうちの一つに,素子の発熱があり,現在の冷却技術では安定動作の維持の限界に達している。もう一つに,素子と素子を接続する配線の抵抗成分が増大し,情報の伝達の時間が増大するという問題もある。現在の微細化状況では,微細化が進めば発熱に伴う動作の不安定化と動作速度の遅延の増大という結果をもたらし,微細化のメリットが消失する。電子回路の部品として分子を用いることは,超微細化および集積化の問題を容易に克服すると考えられるが,単純なシリコンデバイスの機能の置き換えだけでは,電子伝導に伴う上記の問題点は未解決のままである。そこで本研究では,現存の電子部品を模倣するのではなく,レドックス中心が直交配向した有機分子を用いて電子伝導によらない情報伝達機能を有するデバイス構築を行う事により,上記問題点の克服を目指す。本研究に適した分子は,(1)近接位に固定された電気化学的に可逆で化学的に安定なレドックス中心を有し,(2)隣接分子のクーロン相互作用により電荷のトンネルが可能なレドックス中心間の強いカップリングを有するが(3)二つのレドックス中心が,異なった電荷を持つ(金属錯体での混合原子価)状態を実現する分子である。そこで本年度は,該当する直交配向分子の設計ならびに合成を行った。この分子は,酸化還元能を示す2つのテトラチアフルバレン部位が共有結合を介して直交配向する空間配置されている。この分子の酸化還元挙動を調べたところ,二電子一段階酸化が起こることが明らかとなった。
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