研究概要 |
1,3,2-ジチアゾリル誘導体は興味深い磁気的挙動や構造相転移を示すことから注目を集めている。我々はS=1/2のモーメントを有するラジカルカチオンBBDTA^+が、対アニオンの種類や結晶化条件によって、二量体、スピンラダー、一次元鎖、二次元格子といった磁気ネットワーク構造を形成し、強磁性相転移やspin-Peierls転移など多彩な磁気挙動を示すことを見出している。本研究では平面型反磁性アニオンAuBr_4^-を有する塩を調製し、その構造と磁気的性質について検討を行った。BBDTA・AuBr_4の単結晶はBBDTA・GaCl_4とTBA・AuBr_4とを原料としてアセトニトリル中で拡散法により調製した。得られた濃青色板状結晶についてX線単結晶構造解析を行ったところ、BBDTA^+とAuBr_4^-との交互積層カラムを形成していた。積層カラム間にはBBDTA^+間に短い原子間S…N接触(3.320A)が存在し、BBDTA^+はab面内に二次元正方格子ネットワークを形成していた。この物質の常磁性磁化率は100K付近にブロードな極大を有しており、40K付近に相転移に由来すると思われる不連続点が存在した。この相転移は反強磁性転移かスピンパイエルズ転移のどちらかであり、反強磁性転移ならば、従来の分子磁性体の中でも格段に高い転移温度である。またスピンパイエルズ転移であれば、二次元系では極めて珍しい。今後、この相転移について詳細を検討する予定である。
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