前年度に引き続き、ドナー分子骨格中のセレンを全て硫黄に置換して溶解性を上げた含ヨウ素ドナー分子DIP(Diiodo(pyrazino)tatrathiafulvalene)を用いて導電性カチオンラジカル塩の作成を試みたところ、母体であるDIPSe系と同様に、チャンネル構造を含む超分子有機伝導体(DIP)_3(anion)(solvent)_X(1)を得ることが出来た。1の電気伝導性は、セレンを原子半径の小さな硫黄に置換したことによる若干の低下が見られるものの、室温付近では導電性材料として十分な値(σ_<rt>〜10Scm^<-1>)を保持していることがわかった。1はDIPSeの同形塩と同様に、含水有機溶媒中で加熱還流することによりカチオンラジカルの還元反応がスムーズに進行し、中性ドナー分子DIPを定量的に回収(=リサイクル)出来ることがわかった。1はドナー分子中にセレンを全く含まない点、および結晶溶媒としてハロゲンフリーなアルコール系を用いていることから、将来の工業利用に向けた環境負荷の大幅な低減に成功したと言える。また、今までに得られた六方晶系の超分子有機伝導体を固体のまま加熱したところ、含水有機溶媒中での加熱と同様に、電気伝導性のカチオンラジカル塩から絶縁性の中性ドナー分子を回収(=リサイクル)可能であることを見い出した。この熱還元反応による原料リサイクルは、廃棄の際に別途無害化が必要となる有機溶媒を全く用いていない点で、環境に優しい化学反応である。
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