日本発のナノ材料であるカーボンナノチューブの電子デバイスへの応用を促進するため、ナノチューブを水に可溶化できるペプチドとナノチューブの直径を識別するペプチド分子ピンセットを設計し、これらペプチドをナノチューブに作用させることで、ナノチューブを可溶化しつつ直径ごとに識別するシステムを構築することが目的である。平成19年度では、1.可溶化ペプチドによるナノチューブの識別の検討、2.直径を識別するペプチドピンセットの設計の2項目を計画した。1の項目では、親水性、疎水性、鎖長、フェニル基の数が異なる両親媒性オリゴペプチドを12種合成し、それらのナノチューブ可溶化能を調べた。その結果、Glyを3残基、Pheを2残基含むペプチド誘導体が高いナノチューブ可溶化能を示し、さらにペプチドの回収もメタノール等を加えることによって比較的容易にできることも判明した。これを利用して、不純物を含むナノチューブ試料から、高純度のナノチューブを精製する方法も確立した。この方法はナノチューブ表面を傷つけることなく、不純物を除去できる方法として有効と考えられる。興味あることに、この方法によって精製されたナノチューブでは、金属性と半導体性を示すものの比率が変化している様子が観測されたため、現在詳細に検討している。2の項目では、特定の直径を持っナノチューブと選択的に結合することによって直径識別可能と考えられる直鎖状ペプチドの設計を行い、現在合成中である。この設計では、項目1の研究成果を参考に、ナノチューブへの吸着にはPhe残基を用いている。両末端に配置したCysの間にジスルフィド結合を作らせて環状になるように設計し、この環状ペプチドの円周に相当する外周をもつナノチューブだけに結合し、その後選別に利用する。以上のように、平成19年度の計画は、全体としてはほぼ順調に進み、今後のペプチドピンセットの設計が期待される。
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