研究概要 |
本研究では遺伝暗号表を拡張するために1.UAA (Ochre)終止コドンに対応できるサブレッサーtRNAを人工的に調製し、2.生体外タンパク質合成系を用いてUAAコドン選択的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法を開発することを目指している。 今年度は、酵素(RNase T1)による限定分解とRNA ligaseによる再連結を利用する「分子整形技術」により、酵母tRNA^<Tyr>(GΨA)のアンチコドン1文字目のG34をΨ(プソイドウリジン)34に改変した変異体tRNA^<Tyr>(ΨΨA)および対照としてU34に改変したtRNA^<Tyr>(UΨA)を作成した。幸い、両変異体は野生型のtRNA^<Tyr>(GΨA)とほぼ同程度のチロシン受容活性を示した。これら3種のtRNAと無細胞タンパク質合成系を用いて、oligo(UAN)_<11> (N=U,C,A,G)を鋳型とするポリペプチド合成を行った。変異体tRNA^<Tyr>(ΨΨA)はoligo(UAA)_<11>を鋳型にポリチロシンを合成したが、oligo(UAG)_<11>には対応せず、期待通りのUAA(Ochre)サプレッサーとして機能することが証明された。しかし、意外なことに対照として作製したtRNA^<Tyr>(UΨA)も同様の挙動を示した。すなわち、oligo(UAA)_<11>を鋳型にポリチロシンを合成したが、oligo(UAG)_<11>には対応しなかった。このことは少なくとも今回用いたタンパク質合成条件下ではtRNAのアンチコドン1文字目のUはmRNAのコドン3文字目のGとウォブル対合しないことを意味しており、F. Crickの提唱した「ウォブル仮説」を見直す必要も含め、今後の更なる検討が必要である
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