研究概要 |
1. 位置選択的アシル化 イノシトールの芳香族アシル化については上手く行く事を既に報告したが、今回、脂肪族系でも適用できる方法を見出す事ができた。即ち、無水物(混合酸無水物も利用可)をLiCl/DMA中Et3Nの存在下イノシトールと反応させると1,3-二置換体を収率よく得る事ができた。無水物の当量数を減らすことで1位モノ置換体を優先して得られることもわかった。 2. 機能性分子のデザインと合成 本研究成果であるイノシトールに無保護で一挙に置換基を導入できる方法を利用して、1)生物活性分子、2)界面活性分子の合成を行い性質を調べた。1)については、各種1,3-二置換体、1-モノ置換体について(24検体)抗腫瘍活性を調べたところ、2種の二置換体に強い活性が認められた。一方、従来法に比べ単工程で合成できる本合成手法を利用すれば実用的な界面活性剤の開発が可能となる。そこで、一置換アシル体、スルホニル体、カルバモイル体を合成し、界面張力の測定(Wilhelmy法)を行った。その結果、いずれも水に対する溶解度が低いためにミセル形成の途中段階で析出が起こり、臨界ミセル濃度の測定には至らなかった。今後、溶解度を上げた誘導体の設計を再度検討する。 3. ジアシロキシスズによるジオール、ポリオール類の選択的置換反応の開発 非プロトン性極性溶媒中で置換反応行う手段として、スズによりアルコールを活性化する方法に着目し、殆ど合成的に利用されていないジアシロキシスズを試す事にした。その結果、ジアシロキシスズは従来のスズ試薬と同等の働きをし、溶解度や取り扱いの点では優れている事が分かった。即ち、触媒量のスズ試薬の存在下、1,2-ジオール類のモノ置換反応が収率良く進行し、各種モノアシル体、スルホニル体、リン酸エステルが得られた。本題のイノシトールについても同様の反応を行ったが、リン酸化やベンゾイル化が選択的に進行するものの収率に問題点が残った。
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