節足動物や軟体動物の血液中に存在するヘモシアニンはタイプ3銅含有タンパク質の一つであり、酸素運搬・酸素貯蔵タンパク質として知られている。ヘモシアニンの酸素結合には、同じく酸素分子を運搬するヘモグロビンと同様にアロステリック効果があるが、このアロステリック効果の詳しい分子機構は明らかにされていない。そこで本年度は、チチュウカイミドリガニヘモシアニンの酸素結合ダイナミクスを酸素濃度、pHを変化させて、フラッシュフォトリシス法により調べた。 337nmに特徴的な強い吸収帯を有するオキシヘモシアニンに355nmのパルス光を照射すると、337nmの吸光度が瞬時に下がり、その後数10から数100μsの時間スケールで吸光度が回復した。このとき観測された吸光度の時間変化を指数関数でフィッティングすることにより酸素結合速度定数が求まった。pH6.5、高酸素濃度(酸素濃度50%以上)およびpH7.8では、光照射後の酸素結合による吸光度変化は1つの指数関数でフィッティングすることができ、酸素結合反応は一相で起こることが判明した。しかし、pH6.5、低酸素濃度(酸素濃度35%以下)での吸光度変化は一つの指数関数を用いてフィッティングすることができず、二つの指数関数を用いる必要があった。この原因はpH6.5、低酸素濃度では、ヘモシアニンが酸素結合速度の異なるRとTの混合状態にあるためと解釈した。これらの結果より、ヘモシアニンがRとTの混合状態にある場合でも、フラッシュフォトリシス法を用いることによりRとT状態の酸素結合挙動を分けて調べることが可能であることが示された。
|