節足動物や軟体動物の酸素貯蔵および運搬を担っているHcの多量体は、ヘモグロビン(Hb)のように酸素結合に対して協同作用を示す。また、HcはHbと同様、pHにより酸素親和性や協同性が変化するボーア効果を有する。Hcによる酸素分子の脱着は、pHなどの環境の違いによるボーア効果を利用して効率的に行われる。節足動物由来HcはpHや乳酸の影響を受けて酸素親和性や協同性を変化させるが、HcにおけるpHや乳酸の効果の詳しい作用機構は明らかにされていない。 Hcの紫外可視吸収スペクトルにおいて、乳酸添加による560nm付近の吸収帯の吸収極大波長はpH6.5、8.3いずれの場合も変化しなかった。この結果から、乳酸はoxyHcの活性部位構造に影響を与えないと推測された。次に、pH6.5において、乳酸濃度が約40mMになるまで乳酸の添加に伴いK_obsは増大したが、pH8.3では変化しなかった。この乳酸添加によるK_obsの増大量は、pHの上昇に伴い減少し、pH8.3ではほとんど変化しなかった。また、単量体CaeSS2では、乳酸添加によりK_obsは変化しなかった。次に、Hcと乳酸の相互作用をITCにより調べた結果、pH6.5とpH8.3で乳酸濃度約1mMで乳酸がHcに結合することが解った。pH6.5では高濃度の乳酸(〜20mM)添加により、さらに乳酸がHcに結合することが示唆された。低濃度の乳酸添加ではK_obsの変化は小さかったことから、この濃度での乳酸とHcの結合は酸素結合挙動に影響を与えず、pHが低いときのみ現れる高濃度領域での乳酸の結合が、K_obsの変化と関係していると解釈した。また、単量体CaeSS2は乳酸と結合しなかったことから、乳酸は四次構造変化を誘起することによりK_obsが増加すると推測された。
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