リポ多糖ReLPSはグラム陰性菌の表層に存在し、我々高等動物の自然免疫の鍵物質として働く。これまでに、自然免疫における動物細胞側の病原体認識の機構の解明が急速に進められてきたが、その反応の場である動物細胞側の細胞膜の働きは未だ明らかではない。そこで、まず、LPSと細胞膜脂質との間の相互作用を理解するために、いくつかの物理化学的な手法を用いて、モデル膜であるリン脂質二重膜中に大腸菌のR型変異種であるReLPSがどのように存在するかを調べてみた。31Pの固体NMRスペクトルにより、ReLPSの一部は脂質二重膜に挿入することがわかった。また、ReLPS存在下では、脂質膜の構造は脂質の構成に依存して大きく変化することがわかった。特にReLPSはegg L-a-phosphatidylcholine(Egg-PC)を多く含んだ膜では膜のミセル化を起こすが、phosphatidylethanolamine(PE)を多く含んだ膜ではそのようなミセル化は起こさないことがわかった。また、GUV膜や平面膜中でのReLPSの局在を顕微鏡を用いて観測をしたところ、どちらのモデル膜中でもReLPSはEgg-PCのみから構成される脂質二重膜中に均一に挿入していた。一方、Egg-PCに負電荷を持つ1-palmitoyl-2-oleoyl-srrglycero-3-phosphoglycerol(POPG)を少量混ぜて作成した膜に対しては、ReLPSは部分的に挿入し、二重膜の表面に非ラメラ相の会合体が観測された。さらに、ReLPSとEggPCとPOPGをいろいろなモル比で混ぜて作成した平面膜上での、リン脂質の拡散速度を顕微鏡を用いて測定したところ、ReLPSが多いほど脂質の拡散速度は遅くなることがわかった。さらに、ReLPS存在下では、POPGの濃度が高いほど拡散速度は遅くなることがわかった。このように、膜を構成するリン脂質の性質はReLPSの膜中での分布や脂質膜の会合体の構造、そして物理化学的な性質に敏感に影響を及ぼすことがわかった。これは、ReLPSと個々のリン脂質成分との混和性によると思われる。
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