リポ多糖(LPS)は自然免疫系の代表的な鍵物質として最近注目されている。しかし、Toll様受容体がLPSを認識する際に、動物細胞側の細胞膜がどのような働きをしているのかどうかは未だに明らかではない。また、最近生体膜中のラフト領域がシグナル伝達のプラットホームとして注目されている。そこで我々は、自然免疫反応の際には、生体膜とLPSがどのように関わりあっているかを固体NMRにより明らかにした。まず、リン脂質であるphosphatidylethanolamine(PE)のみで構成されている二重膜や、リン脂質の他にスフィンゴミエリンやコレステロールを加えて作成した人工的なラフト膜の中での、Re型LPS(ReLPS)や膜脂質の運動性を固体NMRにより解析した。その結果、ReLPSの回転系におけるプロトンの縦緩和時間T_<1p>^Hは膜脂質に比べ約100倍長く、膜脂質に比べて非常に遅く動いていることがわかった。ReLPSが結合したPE二重膜では、膜脂質は結合していないものと比べると、動きの遅いReLPSにより運動が制限されていることがわかった。また、ラフト形成膜でもReLPSの運動性は遅かった。さらに、DEPEのカルボニル炭素の線形や化学シフトの値から、ラフト形成膜においてReLPSの存在がラフト領域を拡大することが明らかになった。ReLPSは自分自身が飽和したアシル鎖を6本も持っていることより、ReLPSの存在が脂質二重膜中の周りの膜脂質のアシル鎖のオールトランス構造を誘起する効果があると思われる。このように、ReLPSは周りの膜には影響を及ぼす一方、自分自身は周りの環境が変わろうとも同じペースで運動していた。自然免疫反応の際には、ReLPSが膜に挿入することにより、反応の場であるラフト領域を自ら拡大することで受容体であるTLR4との結合が容易になり、よりシグナルが伝達されやすくなっていることが考えられる。
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