アスベスト建築廃棄物には吹き付け材とセメント板がある。実際には、セメント板はそのアスベスト含有の有無の判別が難しいこと、さらにアスベストセメント板はそのままで安全であるという理由から、一般の廃棄物と同じ場所での埋め立て処分が可能となっている。そのため建物の解体や改築時において今後も撤去が問題となるのは吹き付けアスベスト(アスベストの種類は主にクリソタイル)と見込まれる。そこでアスベスト廃棄物として吹き付けアスベストを選定し、その無害化と有効活用に照準を絞った。吹き付けアスベストのクリソタイルの無害化後の有効活用として、高周波(マイクロ波)フォルステライト誘電体を作製することを試みた。フォルステライトの(高周波誘電体の性能指標である)品質係数(Q・f値)は数万から20万の値をとり、比誘電率も7程度で、高速データ通信用発信デバイスとしての利用が期待される。 セメントをアスベストの結合材とした実際の吹き付けアスベスト廃棄物に対して試験を行う前に、純粋なクリソタイルを使った酸処理による無害化と、その処理物を使ったフォルステライトの作製およびその高周波特性の評価を行った。クリソタイルを25℃前後の6Nの塩酸に浸漬した場合、48時間でマグネシウム成分が塩酸溶液中に溶出し、クリソタイルは無害化して非晶質シリカとなった。この非晶質シリカと純粋なマグネシアとをフォルステライト(Mg_2SiO_4)の化学量論比となるように混合して1200℃で1時間加熱し、フォルステライト粉末を得た。このフォルステライト粉末をPECS(パルス通電焼結)装置を用いて1400℃で20分間加熱して焼結した。その焼結体の相対密度(理論密度に対する比)は99.9%に達した。この緻密焼結体の品質係数は10万の値を超え、市販品の3万程度の値を大幅に超えるフォルステライトを作製できた。さらに、その比誘電率は7であった。 以上の結果から、クリソタイルを酸処理して得られた非晶質シリカを原料として、実使用に耐えうる高周波フォルステライト誘電体を作製することに成功した。
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